ちっこいの?黒いの?

携帯電話が普及して久しい昨今、ボッチ師匠は携帯電話を持っていない。
いや、持とうとしない。


師匠はそこに強い主義主張を持っているらしく、
これまでに幾度と無く(しつこいほどに)
「携帯電話がもたらすパワーバランスの不均衡(仮題)」について説法された。


ボッチ師匠曰く、


家の電話であれば相手が誰であろうと、又は相手が誰かわからなくとも、
かかってきた人は電話に出ようとする。
その点で、かける方もかかってくる方も立場は五分である。
しかし、携帯の場合は、電話をかけてきた相手や自分の都合しだいで、
その電話に出るか出ないか決める節がある。
即ち、かかってきた方の立場が上になる。
本来電話は、かける側もかかってくる側も
平等な立場になければならないのに、これは如何なものか。


ボッチ師匠と待ち合わせをするときは、
師匠から公衆電話であたしの電話にかかってくるか、
師匠の唯一の連絡手段である文明の遺産「ポケットベル」に
あたしがメッセージを送るかのいずれかだ。
確かに、それでも意外にやり取りは出来るが、多少面倒くさい。
試しに「そろそろ携帯持てば」と言ってみると、無言のボッチ。
…マズい、あんなに強い信念を持っていらっしゃる人に対して、
さすがに軽率な発言だったかもしれない。不穏な空気が流れた。







次の日、見慣れない番号からの着信。
「携帯買いました」