歯茎ピアス

かれこれ2年ほど、足しげく通っている矯正歯科。
治療も大詰めを迎えているらしく、
今回新な装置が着けられることは、前回すでに聞かされていた。


思い返せばこの2年間、通常では考えられない様々な異物を口の中に
放り込んでは出し、放り込んでは出してきた。
口蓋全面をワイヤーで覆われしばらく味覚を失ったり、
上下の器具にゴムを引っ掛けて猿ぐつわ状態に陥ったり。。。
そもそも「矯正」自体がプレイじみているのに(と、思うのはあたしだけか)、
さらに追加される装置や、例の強烈ドS院長のせいで、
毎回淫靡めいた治療が繰り広げられている。

治療台に座った瞬間、すべての権力は院長に握られ、
それどころかあたしの僅かながらの尊厳すらも奪われる。
。。。と、いうのも、あながち大げさでない。


「今日は歯茎に2本ネジを打ち込むからね〜」


満面の笑みを浮かべ、プラスドライバー片手にあたしの顔を覗き込む院長。
口が閉じられないよう装置を噛まされ、すでに言葉もろくに出ない。


「はひ、おねはひひまふ」
「痛いのがイイ?痛くしちゃおっかな〜」
「……。」
「あれ〜?!緊張してるの?お顔がドキドキしてるよー?」
「………。」


治療(という名のプレイ)開始。
何のための麻酔なんだと怒りすら沸く、
強烈な痛みの注射を歯茎に2箇所、深く深ーく刺された時点で意識が遠のく。


「じゃあ、いよいよイクヨ〜」
日曜大工で使うような、医療器具とは言いがたいプラスドライバーで、
これまた日常生活でもよく見かける体裁のネジを、
極めて一般的な動作、時計回しで少しずつ上顎の骨にねじ込んていく。


生まれて初めて木片の気分をリアルに味わった。
自分が人間だということを一瞬忘れかけた。
尊厳どころか、人権すらいよいよ剥奪されかけているのでは。。。
しばらくはこの歯茎ピアスを装着することになるそうだが、
上唇を手でめくらない限りは見ることができないのが残念。
歯茎にキラリと光る2本のネジ。
来年あたり、ボディーピアスの新境地として流行らないかな。