午後の秘め事

三週間に一度の、歯医者へ行く日。
一年ほど前から始めた矯正器具を締めてもらう。
渋谷のど真ん中にある矯正専門のこの歯科は、
腕もよく、助手もかわいい子が多く、対応も丁寧なので
「ある一点」を除いては気に入っている。


その一点というのが、院長に軽くサディズムの傾向があるということだ。
医者と患者という、圧倒的な力関係が働く中で、
否応なしに押し付けられる趣味嗜好。
院長の口癖は
「折角歯医者に来たんだから、少しくらい痛い思いをしたほうがいい」


その言葉通り、麻酔は極力使われず、あたしが痛みで顔を歪めれば
「この顔が堪らないんだよな。これ見るために歯医者やってるようなもんだ」と、
悦に入った表情を浮かべる。
おまけに今日は、新たな器具が装着され、口内は猿ぐつわ状態。
半開き以上には開けられない口と、「プレイ」に拍車をかけている。


そんな、一時間にも及ぶ「プレイ」が終わると、
心身ともに疲労困憊し、逃れられない口内の痛みにイライラを募らせ、足取りも重い。
いつもなら完全に無視するしつこい風俗のスカウトにも思わず、
「矯正器具着けてるせいで、これ以上口開かないから、使い物にならねーよ!」
と、丁重にお断りする。